近年、都内のマンション価格の高騰が著しいですが、外国人投資家による投資がその一因と言われています。外国人投資家によって、日本の不動産市場が魅力的なマーケットとして人気を集めている理由は、日本の不動産が海外に比べて割安であることや、日本では不動産の購入に規制や制限がほとんどなく、外国人でも日本人と同様に所有権を持つことができることがその背景があるようです。中でも中国人投資家は、豊かな資金力で都心の一等地やニセコなどの人気観光地を次々と購入してきました。
ところが、最近の中国人投資家の投資エリアに変化が見られ、この変化は日本の不動産市場全体にも影響が与えるだけでなく、その動向は投資家も知っておく必要があるのではないでしょうか。
このコラムでは、中国人投資家の投資戦略の変化とその理由、また投資家が知っておきたいことをまとめてみました。
いま、中国人投資家に起きている変化

これまでの中国人投資家の主な投資エリアは、冒頭に述べたように東京都心の一等地(港区、千代田区、中央区、渋谷区、新宿区など)や、北海道のニセコといった人気観光地がメインでした。これらのエリアは、利回り重視のインカムゲイン(家賃収入)や、資産価値が安定しているため将来の転売益(キャピタルゲイン)、観光需要の高まりや再開発による地価上昇への期待から、人気を集めてきました。特に、都心の数億円規模の高級物件がキャッシュで一括購入されることも多かったようです。
しかし、中国人向けの日本の不動産プラットフォームに掲載されている物件数(2025年6月末時点)を比較してみると、大田区や板橋区の中古物件の掲載数も増えてきており、先日コラムで取り上げた「突然、家賃が2.5倍になった」物件も板橋区であるなど、中国人投資家の投資エリアのニーズが変化していることが一因ではないかと考えられます。

変化の背景にある、3つの要因
① 都心エリアの価格高騰と利回りの低下
既存の人気エリアの不動産価格は、外国人投資家を中心に投資が集中したこと、再開発による不動産価値の向上、また建築コストが上昇したことなど複数の要因によって、軒並み高騰しました。
一方で、賃料収入の元になる家賃も値上がり傾向になっているものの、そのスピードは不動産価格の高騰に対してまだまだ緩やかです。そのため、投資家が期待する利回りよりも、相対的に低くなっていると考えられます。
② 利回り重視へのシフト
利回りが相対的に低下傾向にあっても、都心の一等地への投資が継続してきた理由は、将来の売却を見据えたキャピタルゲインへの期待感や、円安によって不動産価格が外国人投資家にとって割安であったからだと考えられます。そのため、多少利回りが低い傾向があったとしても購入されてきたのでしょう。
しかし、インカムゲイン(家賃収入)を目的とした利回りの重要性が再認識され始め、一等地よりも比較的手頃な価格で購入でき、安定した利回りを狙えるエリアに注目が集まってきたのではないでしょうか。
大田区は羽田空港からだけでなく、都心部へのアクセスも良く、ビジネスでの行き来が多い投資家にとって大変便利な立地です。来日経験がある方からすると、イメージも湧きやすいエリアかもしれません。それに加え、都心エリアよりも不動産価格は割安であるため、投資初心者にも買いやすいエリアの1つになっている可能性があります。
板橋区も都心部へのアクセスも良いことから通勤・通学としても、またビジネスの拠点としても大変便利なエリアです。また板橋区には1970年〜90年代に建てられた中古マンションが多数あり、これらをリノベーションすることによって付加価値を高めて、賃貸マンションとして高い利回りを狙える可能性があり、魅力的なエリアと捉えられているのかもしれません。
③ ニーズの変化 – 投資目的から居住へ-
一口に中国人投資家といっても、その層は多岐に渡っています。資産保全として将来の転売益(キャピタルゲイン)狙いの投資家だけでなく、手頃な価格で購入して高い利回りを得たい投資家や、日本への永住を視野に入れた移住目的の層が増えているようです。
最新のデータ(中国人の在留資格別の構成比)によると、総数844,187人に対して永住目的と答えた人は336,086人で全体の39.81%を占めています。在留中国人の数もコロナ禍の時期に一時減りましたが、右肩上がりで増え続けています。
出典:令和6年6月末現在における在留外国人数について
出入国在留管理庁(令和6年10月18日)


板橋区や大田区以外では、高い教育環境が充実している文京区も人気を集めています。中国は子どもの教育に大変熱心なことで有名ですが、中国人の富裕層を中心に、教育を目的として移住するケースもあり、日本の不動産へのニーズが多様化していることが挙げられるでしょう。
投資家が今、知っておくべき視点

これまで中国人投資家は主にキャピタルゲインを目的として投資エリアを選定しており、永住を視野に入れた長期的な居住ニーズに対応したエリアに対して、重視していなかったのかもしれません。
投資エリアの多角化が進む今、これから不動産投資を検討する人においても、投資エリアの選定は、継続的に不動産投資を進める上で重要なポイントになると考えています。
次の2つの視点を持ち、投資エリアの選定にも活かしていきましょう。
① 多様化する居住ニーズへの対応
これまで資産保全を優先してエリア選定を検討してきた人も、今後は「どのような人が、なぜこのエリアに住みたいのか」という居住者の視点を合わせ持つことがより求められると考えています。
中国人だけでなく、永住目的の在留外国人が増えているというデータから見ても、彼らにとって住環境や教育環境が充実していたり、交通アクセスが良いといった「住みやすい」条件が揃っているエリアであるかどうかを評価する視点が必要になるでしょう。
② 安定したインカムゲイン
都心エリアは将来の売却益を見込んだキャピタルゲイン狙いの点では、確かに魅力的かもしれませんが、長期的な居住目的が見込めるエリアは賃貸需要が伸びている点から積極的に検討することをおすすめします。
賃貸需要が安定していれば、空室リスクを極力抑えられ、都心エリアよりも高い利回りで運用し、安定した賃料収入(インカムゲイン)を得ることができます。また物件を売却することになった場合も、居住ニーズの高さが投資家にとってアピール材料になるため、大きな値崩れを起こしにくい点もメリットとして期待できるでしょう。
ただし、極端に物件の購入価格が安く、表面上の利回りが高い場合、実態としての賃貸需要が低いため、安定した収益が得られないケースもあります。利回りという数字に踊らされずに、立地、物件の状態、周辺の賃貸市場の状況、将来性などを総合的に判断しましょう。
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投資エリアの多様化は、新たな投資の好機になる

中国人投資家のエリア戦略が、高利回り重視のインカムゲインを目的とするだけでなく、将来的な永住も見据えた「居住」という新たな目的も加わったことは、単なる不動産市場の動向にとどまらず、これまでとは異なる新たな投資機会を示唆していると言えるでしょう。
先に挙げたエリアはいずれも東京23区内ですが、カイロスマーケティングでは長期的に安定した賃貸需要が見込めるエリアとして八王子市、町田市、相模原市、川崎市、松戸市などの郊外エリアも投資家の方に提案しています。賃貸需要があるにも関わらず、外国人投資家の参入がまだまだ多くないエリアですから、検討の余地は十分あるはずです。また複数の物件を所有いただくことができれば、リスク分散しながら投資効率を上げることも可能になるでしょう。
不動産市場の動向は常に変化しています。その変化をネガティブに捉えるのではなく、いち早くその兆候を察知して自身の投資戦略へ活かすことが大切です。
投資エリアやそれに伴う物件選定のどちらも、安定した資産形成を継続する上で大変重要です。カイロスマーケティングでは、投資家の目的に合わせて最適な物件・投資エリアをご提案しています。投資初心者向け、融資先の金融機関の選び方を解説した不動産投資セミナーも適宜開催しておりますので、ぜひご参加ください。なお、具体的な金融機関のご提案は個別相談で承っておりますのでご活用いただければと思います。